光超音波イメージングプロジェクトについて

医学の歴史の中で、人体組織の一部を取り出して顕微鏡で観察することにより、
細い血管やリンパ管が年齢や様々な病気により変化することは知られてきました。
しかし、生体内でこれらがどのように変化しているのかについては
眼で見ることや知ることは出来ませんでした。

「光超音波イメージング技術」は、我々の体に負担をかけることなく、
血管やリンパ管の立体的な形状を超高解像度で撮影することができる画期的な手法であり、
体外からは目にすることのできない体内組織を画像化する技術として、
現在普及している超音波検査やCT(コンピュータ断層撮影)、
MRI(各磁気共鳴画像法)とは原理的に異なる新しい技術です。

慶應義塾大学病院では、この技術を医療へと応用するにあたり、開発段階から診療科を横断したワンチームとして参加してきました。
その成果は、世界最先端レベルでの学会や論文形式で発表しており、多くの注目を集めて参りました。
私たちはこの技術を単に研究段階で終わらせることなく、
患者の方々のご協力を頂きながら、さらに発展させ、
近い将来、超音波やCT、MRIに続く医療用イメージング装置として、
病気に苦しむ多くの方々の診断治療に役立てたいと願っております。

貴志 和生
形成外科 教授・診療科部長

光超音波への期待~形成外科医としての観点から

このプロジェクトでは、形成外科や血管外科、解剖学教室などから成るメンバーが中心となり、今まで見ることのできなかった、非常に細かな脈管の構造を観察できる装置を用い、リンパ浮腫や静脈瘤、末梢血管障害などに関する研究を行っております。
初めてこの光超音波イメージングの画像を見たとき、今まではぼんやりとしか見えなかったリンパ管と血管がこのようにはっきりと見えることに驚き、光超音波イメージングが、これからの形成外科領域の治療に大きな進歩をもたらす夢のような技術だと感じたことを未だ忘れることができません。
この装置は非常に将来性が期待できる装置ですが、まだ開発途上です。必要とされる患者の方々のもとに早く届けるために、我々は日々研究を進めています。
是非皆様にもこの新しい光超音波イメージング技術に「夢」を感じて頂ければ幸いです。

陣崎 雅弘
放射線診断科 教授・診療部長

光超音波への期待~放射線科医としての観点から

近年の画像診断の急速な進歩により、中枢神経系、気道系、心血管系、胆道系、消化管系、尿路系、筋骨格系など多くの人体のシステムや臓器は3次元で可視化できるようになりました。その中で、画像での3次元の可視化が十分できていなかったのがリンパ系です。X線を使ったリンパ管造影、核医学検査でのリンパシンチグラフィーなどが古典的な検査法ですがいずれも2次元での評価法でした。3次元画像としては、MR lymphangiographyがありましたが検査法が十分確立していませんでした。そこに、光超音波が3次元検査法として登場しました。MR lymphangiographyに比べて光超音波ははるかに空間分解能が高く、リンパ管と静脈の位置関係などの局所を明瞭に可視化できる点が大きな利点です。一方、MR lymphangiographyは局所のみならず、全体を俯瞰しやすいという利点があります。今後、MR lymphangiographyを検査法として確立しながら、光超音波との使い分けを明確にし、古典的検査法を含めたリンパ管イメージングの診断アルゴリズムの構築を目指したいと思います。効率的な診断法の確立を通して、リンパ系疾患の患者さんに少しでも貢献できればと思っております。

尾原 秀明
一般・消化器外科 准教授・診療科部長

光超音波への期待 ~血管外科医としての観点から

人口の高齢化や、糖尿病や高血圧といった生活習慣病の増加により、血管の病気を抱える人が増えています。閉塞性動脈硬化症などの末梢動脈疾患や下肢静脈瘤などの静脈疾患の患者さんは国内で1000万人以上と推定されています。
血管病変の画像診断には、超音波イメージング装置、造影MRI画像などが用いられています。詳細な病変の把握には造影剤を用いた血管造影法、造影CTアンギオグラフィなど侵襲性がある検査法がありますが、現時点では血管の状態を詳細に把握できる非侵襲性の検査法はありません。光超音波イメージング技術は、超音波と光による生体計測を融合した光の持つ酸素飽和度などの機能情報と、超音波による空間選択性を兼ね備えた新しい医用画像手法として期待されており、非侵襲性、実時間性、簡便性に優れ、安全性が高い新しい非侵襲的画像診断法の一つとして期待されています。
将来的に様々な疾患での血管の形態をこの光超音波イメージング技術で明らかにすることができれば、血管系の診断に用いられる新たな医用画像手法の実用化につながりますし、末梢血管を主病変とする患者さんに対して、より一層良質な医療を提供することにつながると期待されます。また、微小な血管を詳細に描出できることから、血管腫や血管奇形の診断に応用できるのではないかとも考えています。

辻 哲也
リハビリテーション科 教授・診療科部長

光超音波への期待 ~リハビリテーション科医としての観点から

リンパ浮腫に対する標準治療は、複合的治療(複合的理学療法を中心とする保存的治療)です。弾性着衣や弾性包帯による圧迫療法および圧迫下での運動療法はその根幹をなすため、リンパ浮腫はリハビリテーション診療と親和性が高い疾患です。
複合的治療の有効性を検証する際のアウトカム評価として、これまで四肢の周径や体積などの形態評価が一般的でしたが、リンパ流の阻害や減少が原因であるリンパ浮腫の評価としては不十分であったことは否めません。光超音波を用いて、リンパ管を可視化し、リンパ流を直接観察することにより、リンパ管機能を詳細に評価できれば、大きなアドバンテージとなります。光超音波は、圧迫下運動療法を実施する際の、圧迫圧や運動負荷量の詳細なプロトコールの確立への寄与など、様々な可能性を秘めています。リハビリテーション科医として、今後の機器開発の成果に大きな期待を抱いています。